『だれかが封を切る』
封筒で手紙が届いたとき、開封するのをためらうことが、ごく稀にあります。
ハサミを入れるのがもったいなかったり、内容を確認するのが怖かったり、
ただの気まぐれだったり。
開けてみるといったい何にためらっていたのかと不思議な気持ちになりますが、
封をされた手紙には手を出せない何かを感じます。
もしも気が向いたら、封を開けてみるのもいいかもしれません。
寺田就子
寺田就子 『だれかが封を切る 2』
銅板にエッチングとドライポイント、紙にインクジェット出力、プラスチック、封筒、色鉛筆
16.2×11.4(cm)
2020年
『envelope as a door』の第6弾は、6月に大変ご好評をいただいた寺田就子が、再び皆さんに作品をお届けします。
ガラスやプラスチック、鏡など、反射反映素材と既製品とを組み合わせた作品で知られる寺田ですが、大学では版画を専攻していました。『銅板のひんやりした感触と、細い線が表現できることに惹かれて』版画を選び、単に版を刷るばかりではなく、当時から鏡や銅板、シャーレなどのガラス素材とを組み合わせることを試みています。寺田にとって版画とは、虚と実がとなりあう、鏡のなかの世界であり、そこには作家の一貫した世界観が伺われます。
『わたし、手紙を開けるのがこわいんです。』
5月、非常事態宣言の最中、このプロジェクトをはじめるにあたり、電話で相談を持ち掛けているときでした。本当は『開けられない手紙』を考えていた、という会話に続いた、思いがけない言葉。確かに、待ち望んだ手紙は封を切るものももどかしい。けれども、封筒が運んでくるのは楽しい報せばかりではありません。中身が分からないからこそ早く開けたいのであり、また、ためらうこともある。そんな、封を開ければ中身に気を取られてそのうち忘れてしまうような、ひとときの逡巡を、そっと心に留め置く。その表れに、この作家があることを、あらためて知らされたのでした。
今の状態を壊すことへの戸惑い。そして、その先にある未知と出会うことへの恐れ。『開けられない手紙』の薄い透写紙の封筒は、何を隠し、何を顕わにするのでしょうか。
作品は全部で4点。
当初はまだ外出が難しく素材が調達できなかったため、見送られたプランでしたが、ここにあらためてご案内申し上げます。
寺田就子 『だれかが封を切る』
銅板にエッチングとドライポイント、紙にインクジェット出力、プラスチック、封筒、色鉛筆
各/ 16.2×11.4(cm)
2020年
寺田就子 『だれかが封を切る 3』
寺田就子 『だれかが封を切る 1』
銅板にエッチングとドライポイント、紙にインクジェット出力、プラスチック、封筒、色鉛筆
16.2×11.4(cm)
2020年
寺田就子 『だれかが封を切る 2』
銅板にエッチングとドライポイント、紙にインクジェット出力、プラスチック、封筒、色鉛筆
16.2×11.4(cm)
2020年
寺田就子 『だれかが封を切る 3』
銅板にエッチングとドライポイント、紙にインクジェット出力、プラスチック、封筒、色鉛筆
16.2×11.4(cm)
2020年
寺田就子 『だれかが封を切る 4』
銅板にエッチングとドライポイント、紙にインクジェット出力、プラスチック、封筒、色鉛筆
16.2×11.4(cm)
2020年