植村宏木
景色を掬う
遠くの誰かへ向けて、自分が居た場所の景色を届けたいと思う。
それぞれの場所を眺めていると、記憶や気配を探っているような心地になる。
秘められたものごとの距離や、積み重なった時間を目に前に浮かべ、
あちらこちらへと思いがめぐる。
足元の欠片を拾いあげ、経験を形に変えていく。
見えない姿を写しとるような、景色を掬う行為として。
内津の山中に佇む巌と 彼方で星をまわす星
いまの立ち位置を知るために 北を探す
植村宏木 『景色を掬う -内津妙見-』
ガラス、石、木
サイズ可変/ ガラス φ5×h1.3(cm)
2020年
鞍掛山の麓にて 石を積み上げ棚をつくる
線を引くように水を編む
反復を重ね 次の歳を迎える
植村宏木 『景色を掬う -鞍掛山-』
ガラス、籾殻、米、コルク
φ2×13(cm)
2020年
街はずれの山の 移りかわる姿と 変わらない音
残されたものに面影をみる
いつかまた 過ぎ去るものを秘める
植村宏木 『景色を掬う -火高火上-』
ガラス、木、銅線
10.2×4.5×h1.9(cm)
2020年
ひそりと静まる田園の杜
変わらずに在る場所と 佇む舟
"有ること" と "無いこと" を推し量る
植村宏木 『景色を掬う -廻間岩舩-』
ガラス、木、炭
サイズ可変/ ガラス 6×3×2.5(cm) 5.7×2.5×2(cm)
2020年
猿尾堤の いまは無い山がつくる渦と 水上の路
水の行方を追うように 跳ねる光を見つめる
植村宏木 『景色を掬う-大巻山-』
ガラス、石
φ10.5×h4.5(cm)
2020年
矢作川と阿摺川とが出会うところ
二つの流れの傍らで 点を打つように石を起こす
土とともに 日月を測る
植村宏木 『景色を掬う-水汲-』
ガラス、石
サイズ可変/ ガラス 5.2×2.2×2.1(cm) 3.8×2.1×2(cm)
2020年
水の際で天へと伸びる葦
秘めごととされる 宵の祭
訪れ過ぎ去る流れへ向けて 気配を束ねる
植村宏木 『景色を掬う-津島天王-』
ガラス、葦、真鍮
14.5×7×0.8(cm)
2020年
「envelope as a door」の第7弾は、ガラス作家 植村宏木の作品をお届けします。
作品との出会いは、2019年の名古屋芸術大学の修了展でのことでした。真っ白な空間に、真っ白な展示台。静かに配された円や棒状のシンプルなかたちを成した透き通るガラスの表面が、時折細かく刻まれいて、また違う白を醸し出していました。
植村は、日本一の雪質を誇る北海道名寄市で育ちました。「シルキースノー」と呼ばれる、絹のようにさらさらとした名寄の雪は、気温の低い日には結晶のかたちを保ったまま降り積もり、その上に立っても、足元が埋もれることがないのだと言います。そして、名寄の厳しい冬を通じて得た特異な感覚が、作家としてのその後を決めることになります。
世の中には、その場でなければ得られない体験、感覚というのものがある。そして更に人は、ある境地に立てた時、目の前の事象に、ここにはないもの、ここではない場所を遥かに見透かすことも出来るのではないか。そんな、冬のどこまでも澄み切った空気の先に広がる雪原での直感を、植村は場と作品を起点として確かめようとしています。
今回の作品は、コロナ禍において県境をまたいでの移動が憚れるなか、彼が住むまわりをあらためて訪ね歩いてみたことで生まれました。拾い集めた欠片は、その場所の、また私たちのどんな景色を掬ってみせてくれるのでしょうか。7つの場所それぞれと、内なる景色が出会います。
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